
合格ラインに合わせたはずの声が、逆に聞き取りにくくなった。
今日の差分で、そこがいちばん刺さった。
AIに音声を作らせる時、私は「速すぎないか」「遅すぎないか」を数字で見ようとしていた。
感覚だけで決めるより、指標を置いた方が安定する。
その考え方自体は間違っていない。
でも、数字に合わせることを優先しすぎると、聞きやすさそのものを壊すことがある。
差分に残っていた中間物は、かなり具体的だった。
通常キャラ=1.2倍
早口キャラ=1.4倍
「ナレ並み(7±1モーラ/秒)を全キャラ必須」は上書き廃止
前のルールは、全員をナレーション並みの速さへ寄せようとしていた。
その結果、キャラごとに1.3倍から2.0倍まで個別調整が増え、ある役の声が「ちょっと早口」ではなく、聞き取りにくい早口へ振れてしまった。
指標は、体験を守るために置くものだ。
指標を満たすために体験が壊れたら、ルールを戻す。
今日はその話を書く。
数字に合わせたのに聞きづらい

最初の違和感は、たぶん小さかったと思う。
「声が少し遅い」
「ナレーションと比べるとテンポが落ちる」
「離脱されないように、もう少し速くしたい」
こういう判断は、AI制作ではよくある。
音声は目に見えない。
だから、感覚だけで判断するとブレやすい。
そこで数字を置く。
何モーラ毎秒か。
モーラは、日本語の音の拍を数える単位だ。
ナレーションと比べて遅すぎないか。
キャラごとに速度を調整し、基準へ近づける。
ここまでは普通に正しい。
問題は、その先だった。
差分では、古い基準がこういう扱いになっていた。
「ナレ並み(7±1モーラ/秒)を全キャラ必須」という2026-07-14ルールは、
話者ごとに1.3〜2.0倍まで個別に吊り上げる必要が生じたため上書きする。
つまり、数字に合わせるために、キャラごとの調整がどんどん増えていた。
本来は、声の聞きやすさを守るための基準だった。
でも運用してみると、基準を満たすための調整そのものが、声の自然さを削っていた。
「測れること」と「聞きやすいこと」は、同じではない。
ここを混同すると、AIの出力は合格しているのに、人間にはしんどいものになる。
原因は個別最適の積み上げだった

今回の怖さは、ひとつの大きなミスではなかったことだ。
いきなり変な声を作ったわけではない。
ひとつずつ見ると、どれも改善に見える。
- この話者は少し遅いから上げる
- このキャラは聞き取りにくいから別の値にする
- この台詞はテンポが落ちるから間を詰める
- ナレーションとの差が出るから、さらに合わせる
こうして、キャラごとの速度、間、声色の調整が増えていく。
最初は丁寧な調整に見える。
でも、数が増えるほどルール全体は読みにくくなる。
そして、読みにくいルールはAIにも人間にも扱いにくい。
今日の差分には、もう一つの修正も残っていた。
pauseは、話速合わせのためだけに入れていた値は外し、
演出上の間でのみ使う。
これも大事だと思った。
pauseは、聞きやすさを作る道具だ。
でも「数字を合わせるための部品」として使い始めると、どこで感情の間を作っているのか、どこで計算上の帳尻を合わせているのかが混ざる。
AIに任せるほど、この混ざり方が危ない。
次に別のAIが読んだ時、何を守ればいいのか分からなくなる。
人間が見ても、どれが演出で、どれが補正なのか分からなくなる。
個別最適は、少数なら改善になる。
積み上がりすぎると、次の判断を鈍らせる。
今回の反省は、そこだった。
2段階ルールに戻す

そこで、今日の差分ではルールがかなり単純になっていた。
音声速度は通常キャラ=1.2倍、早口キャラ=1.4倍の2段階のみ。
speech_styleで明確に「早口」と指定されたキャラだけ1.4倍。
それ以外は1.2倍で統一する。
私はこの戻し方が好きだ。
細かい調整を全部禁止しているわけではない。
でも、基本値を2つに戻している。
通常の人は1.2倍。
早口キャラだけ1.4倍。
それだけで、判断がかなり軽くなる。
キャラを作る時も、音声を確認する時も、まず見る場所が決まる。
「この人は早口キャラとして設計されているか」
答えがYESなら1.4倍。
NOなら1.2倍。
例外を作るなら、なぜ例外なのかを書く。
これで、毎回ゼロから調整しなくてよくなる。
AIにとっても、人間にとっても、ルールは短い方が運用しやすい。
短いルールは、守られやすい。
例外が見つけやすい。
そして、後から直しやすい。
ルールを強くするとは、細かくすることではない。
守る判断が一瞬でできる形に戻すことだと思う。
今回の「2段階」は、その方向の修正だった。
次は例外だけを測る

今回の学びを、ただの反省で終わらせるとまた戻る。
だから次に見る数字を変える。
以前は、全キャラをナレーション並みに寄せることを見ていた。
次からは、全員を細かく合わせるのではなく、例外だけを見る。
- 通常キャラなのに1.2倍以外になっていないか
- 早口キャラなのに1.4倍以外になっていないか
- pauseが話速合わせのためだけに入っていないか
- 聞き取りにくい例外だけ、人間が耳で確認したか
このくらいでいい。
全部を測ろうとすると、全部をいじりたくなる。
全部をいじると、どこが原因だったか分からなくなる。
AI運用で大事なのは、毎回完璧な微調整をすることではない。
次回も同じ判断ができるように、判断の形を残すことだ。
今日の新ルールは、こう置ける。
声のspeedは通常1.2倍、早口1.4倍の2段階。
pauseは演出上の間にだけ使う。
速度の数字で全員を揃えず、聞き取りにくい例外だけを耳で確認する。
数字を捨てるわけではない。
数字を、体験の上に置き直す。
AIに任せる仕事ほど、指標は必要だ。
でも、指標が目的を壊し始めたら、いったん単純なルールへ戻す。
今回の一手は、それでいい。
指標は体験を守るために使う。数字に合わせて聞きやすさが壊れたら、ルールを短く戻す。