執筆者:あさモ
AIに頼みごとをするとき、私はずっと「説明が足りないからズレるんだ」と思っていた。
だから言葉を足した。
条件を足した。注文を足した。
そうしたら、返ってくるものはどんどん遠ざかっていった。
細かく指示してるのに、返事が毎回ちょっと違う

最初に起きていたのは、こういうことだった。
こういう文章を書いて、と頼む。
トーンはこう、長さはこのくらい、最後はこう締めて、と条件を並べる。
出てくる。
惜しい。
でも、なんか違う。
ちゃんと指示してるのに、毎回ちょっとだけズレる。
この「ちょっとだけ」がいちばん厄介なんだよね。
全然違うなら、ためらわず捨てられる。
惜しいから、つい直したくなる。
で、私は直しにかかる。
ここをもう少しこうして、と一文足す。
あそこの語尾はやわらかく、ともう一文足す。
このときは気づいていなかったけど、これが沼の入り口だった。
直そうとして説明を足すほど、ドツボにはまる

ズレを埋めようとして説明を盛る。
すると次は、なぜか別のところがズレる。
そこをまた言葉で押さえる。
すると、また違うところが動く。
モグラ叩きみたいに、押した分だけ別の場所が飛び出してくる。
正直、ここでだいぶ時間を溶かした。
で、あるとき気づいた。
言葉でゴールを描こうとすると、描けば描くほど絵がぼやける。
理由はたぶん単純で、頭の中にある「こういう感じ」を、私は全部は言葉にできていない。
トーンとか、間の取り方とか、語尾の癖とか。
そういう「なんとなく」を言語に変換しようとした瞬間に、こぼれ落ちる。
こぼれた隙間を、AIは自分の推測で埋める。
だから毎回ちょっと違うものが返ってくる。
悪いのはAIじゃなかった。
私の渡し方のほうだった。
しかも、説明を足せば足すほど、お願いの文章は長くなる。
長くなると、こっちも何を頼んでいたのか分からなくなってくる。
最初は「軽い感じで」と言っていたのに、条件を盛りすぎて、できあがりはやたら盛り盛りの重い文章。
言葉で完璧な設計図を描こうとして、自分で迷子になっていた。
これ、ほんとあるある だと思う。
言葉で説明するより、「お手本」を1枚見せる

転機は、説明するのをやめた日だった。
昔、自分で書いて手応えのあった文章が1つ手元にあった。
それをそのまま貼って、こう頼んだ。
「これと同じトーン・同じ長さ・同じ構成で、別のネタで3案ちょうだい」
一発で寄った。
あんなに言葉を尽くしても届かなかった「こういう感じ」が、本物を1枚見せただけで伝わった。
拍子抜けするくらい、あっさり。
考えてみれば当たり前なんだよね。
お手本は、私が言語化できなかった部分まで丸ごと持っている。
語尾も、間も、句読点の打ち方も、全部そこに入っている。
説明だと削れてしまう情報が、現物にはそのまま残ってる。
だったら、現物を見せたほうが早い。
私は今まで、AIに「料理の作り方を口で説明する」ことばかりしていた。
塩をひとつまみ、火加減は中火で、と必死に言葉にしていた。
でも本当に伝わるのは、できあがった一皿を「これと同じ味で」と差し出すことだった。
口で説明するレシピより、食べさせたほうが早い。
それと同じことを、文章でもやればよかっただけ。
ただし、ここには落とし穴もある。
AIは見せられたものに似せてくるだけだから、見本の質がそのまま結果になる。
- いい見本を渡せば、いい方向に寄る
- 下手な見本を渡せば、下手な方向に律儀に寄る
つまり、勝負は「どのお手本を選ぶか」に全部移る。
昔うまくいった文章、反応の良かったメール、評判の良かった自己紹介。
手元の「過去のヒット」を1枚選び出せるかどうか。
そこが、効くか効かないかの分かれ目になる。
AIに3案出させて、私は選ぶだけにした

この順番に変えてから、私の作業はずいぶん軽くなった。
やることは、ざっくり2つだけ。
- 過去にうまくいった本物を1枚、お手本として選ぶ
- 「これと同じで3案」と頼んで、出てきた中から選ぶ
ゼロから言葉で指示を組み立てる役を、私はやめた。
代わりになったのは、お手本を選ぶ人と、3案から選ぶ人。
作るのはAI、決めるのは私。
役割をここで切り分けたら、ズレ直しの沼にハマる時間がきれいに消えた。
おまけに、3案もらうのがちょうどいい。
1案だけだと「これしかないのかな」と妥協しがちだし、5案も10案も出されると今度は選べなくなる。
3案なら、並べて見比べて、いちばん近いものに手を入れるだけで済む。
ゼロから書くより、選んで直すほうが、頭の使い方がずっと軽い。
自分がやるのは最後の「選ぶ」と「ちょっと直す」だけ、というのが私にはちょうど良かった。
説明を盛るのは、一見ていねいで、実はいちばんの遠回りだった。
言葉で全部を渡そうとせず、現物を1枚だけ渡す。
あとは出てきたものから選ぶ。
たったこれだけで、毎日のちょっとした作業が、だいぶ楽になる。
で、どうする。
次にAIに何か頼むとき、説明を一行足したくなったら、その手を止めてみてほしい。
足すのは説明じゃなくて、お手本のほうかもしれない。
説明を足すな、お手本を1枚見せろ。AIは見せたものに似てくる。だから私の仕事は、いい見本を選ぶことと、出てきた案から選ぶことだけでいい。