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全部直そうとして散らかる — 直す前に「捨てる基準」を決めた日

全部直そうとして散らかる — 直す前に「捨てる基準」を決めた日

執筆者:あさモ

動いてるのは、118分の14だった

作っただけで動いてないもの

その日、思い立って、自分の作業場をまるごと棚卸しした。これまで作ってきたもの、作りかけで止まっているもの、もう存在すら忘れていたもの。全部、机の上に引っぱり出すみたいに並べてみた。

数えたら、構想は118個あった。アイデアを思いつくたびに「これ良さそう」と形にしてきた結果だ。で、そのうち、実際にちゃんと動いて、毎日回っているのは——14個だった。

118分の14。残りの104個は、作っただけ。動いていない。途中で止まっているか、一回動かしてそれっきりか、存在すら忘れていたか。要するに、ほとんどが「作った瞬間がピーク」だったわけだ。

ついでに走らせた点検でも、直したほうがいい指摘が208件出てきた。そのうち「これは重大」というのが5件。数字を見た瞬間、正直、目の前が一回暗くなった。散らかってる自覚はあったけど、ここまで積もっているとは思っていなかった。

「全部直す」は、いちばん筋が悪い

208件を一個ずつは終わらない

最初に頭に浮かんだのは、いかにも真面目な発想だった。「208件、上から順に一個ずつ潰していこう」。

でも、すぐに違うと気づいた。208件を順番に直していたら、それだけで何日も溶ける。しかも、自分が直している間にも、毎日動いている本命のほうで新しい散らかりが増えていく。追いかけても追いかけても終わらない、あの感じ。掃除している後ろから、誰かが砂をまいてくるみたいな。

ここには、ちょっとした罠がある。「全部きれいにしたい」という気持ちは、一見すると正しい。真面目だし、丁寧だ。でも、散らかりが大きいときほど、その真面目さが自分を止める。完璧に片付けようとして、結局どこからも手をつけられない。やる気があるのに動けない、というやつだ。

そこで、問いを立て直した。問題は「直し方」じゃない。「全部を相手にしようとしていること」のほうだ、と。

208件という数字に飲まれると、つい「全部やらなきゃ」と思ってしまう。でも、死にかけた104個を丁寧に直したところで、結局だれも使わない。直す価値が本当にあるのは、ごく一部だけだ。全部を平等に扱うのをやめる。ここに気づけたのが、その日いちばん効いた判断だった気がする。

本命を1本に絞って、死んだものは"消さずに"外へ

削除ゼロで400MB軽くなった

方針を変えた。全部直すのをやめて、まず「本命はこれ」という作業場を1本だけ決める。そして、それ以外の死んでいるもの・もう使っていないものは、本命の外へ出していく。直すんじゃなくて、どかす。

ここで、自分に一個だけルールを課した。消さない、ということ。

全部「移動」で済ませる。別の棚に避けておくだけ。捨てるんじゃなくて、見える範囲からどかすだけ。理由はシンプルで、当時は履歴の管理が壊れている状態だったから。一度消したら、もう戻せない。それは怖すぎる。だったら、戻せる形のまま、とりあえず脇に避ける。「消す」と「どかす」は、似ているようで全然ちがう。どかすだけなら、間違えても明日また戻せる。

結果、ひとつも削除しないまま、作業場は400メガバイト以上も軽くなった。重かった置き場が、すっと軽くなった。一個も捨てていないのに、見た目はちゃんと片付いた。

これができたのは、「本命かどうか」という捨てる基準を、手を動かす前に決めていたから。基準があると、目の前のものを「残す・どかす」で即決できる。逆に、基準がないまま片付けようとすると、一個ずつ「これ要るかな……」と悩んで、結局なにも動かせない。片付けが進まない人の多くは、たぶんここで止まっている。手を動かす速さじゃなくて、基準のあるなしで差がつく。

「作りたいから作る」を、負債として見る

軽くなった=終わった、ではない

いちばん刺さった学びは、片付けの技術じゃなくて、数字のほうだった。118分の14。作ったものの大半は、動いていない。

「思いついたから作る」「作りたいから作る」を続けると、動かない在庫だけがどんどん積み上がる。最初は楽しい。でも、その積み上がりは、いつか自分の足を引っぱる。管理する手間も、見るたびの小さな罪悪感も、全部こっちに返ってくる。だから、これはもう資産じゃなくて負債だと思って見ることにした。新しく作る前に「これは本当に回すのか」を一回だけ自分に聞く。

これは、副業をいくつも抱えている人や、やりたいことが多すぎる人にも、たぶん同じことが言える。新しく始めるのは気持ちいい。でも、始めたものは全部、あとから自分の時間と注意を食う。増やすときの快感と、抱え続けるコストは、別の財布から出ているように錯覚するけど、実は同じ財布だ。

もう一つ、片付けで気をつけたいこと。「軽くなった=終わった」じゃない、ということ。その日、重大な5件のうち、実際に片付いたのは1件だけだった。残りはまだ生きている。軽くなると達成感が出て、つい「もう終わった」と錯覚する。でも本丸は、たいていまだ残っている。掃除でいちばん危ないのは、片付いた部屋を見て満足してしまう瞬間だ。

で、どうする?——散らかって動けなくなったら、全部直そうとしない。先に「これが本命」を1本だけ決める。残りは、消さずに、戻せる形で外に出す。捨てる勇気がなくても、片付けはちゃんと始められる。基準を決めるのが先、手を動かすのは後。

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