執筆者:あさモ
AIは1例を出すと、全部それに寄せてくる

AIエージェント組織の設計をしていて、ある日突然「これじゃダメだ」と気づく瞬間がある。
今日がその日だった。
塊D(記事自動生成)が完成して、次はInstagram発信を作ろうとした。
1つ例を出した。新しいAI機能が出たとき、ユーザー視点で逆算したタイトルを1枚目に置く、保存導線でCV、プロンプトはコメント欄に置いてエンゲージで配布する型。
AI界では既に勝ちパターンになっている型だ。
Claudeが返してきたのは「3案ハイブリッド・推奨案3」のきれいな提案だった。
それを読んで思った。
これ、私が出した1例に全部寄せてきてる。
AIは枠を作ると枠の中で考える

AIエージェントは「具体例→テンプレ化→適用」の流れで動く構造を持っている。
人間が1例を出すと、AIはそれを「正解」と解釈する。
結果、指示書はその例専用の機械になる。
新機能リリースが来たら、必ず保存meta型カルーセル。
他の切り口(解説型・実況型・比較型・失敗談型)は、人間が毎回手動で指示しないと出てこない。
これは塊A(X投稿)でも起きた現象だった。
当初「観察証言型」一辺倒になり、5月末に「3型使い分け」に転換した経緯がある。
同じ罠に最初からハマりかけていた。
問題は「AIに自由度がない」ことではない。
人間が枠を与えすぎていることだ。
「もっと広げてほしい」の構造分解

その日の議論で、私はClaudeに言った。
「あなた方は無限の組み合わせを試せる。私が言語化できるパターンは全体のごく一部にすぎない。それを最初のコンテキストに入れてほしい」
これを受けてClaudeが3案を出してきた。
案1 能力肯定型 指示書冒頭に「あなたは無限の組み合わせを試せる」と書く。
案2 役割宣言型 AIを「実行者」ではなく「共同設計者」と位置づけ、必ず3軸(指示通り案・前提を疑った案・想定外の切り口案)を出させる。
案3 階層分離型 タスク種別(探索/実装/精査)で自由度の出し方を変える。
私が引っかかったのは、3案ともそれっぽいが、「3軸強制」が新しい型の固定化になる懸念だった。
枠を外すために新しい枠を作る。
これは設計の罠だ。
一線だけ厳格にして、それ以外はAIに自由度を返す

その日もう一つ確定した方針がある。
指示書は短く・的確に。
細かすぎはAIに逆効果になる。
理由は構造的だ。
細かい指示書は「ここに書かれていないことはやらなくていい」というメッセージをAIに送る。
結果、AIは指示書の範囲内で動き、それ以外の発想を出さなくなる。
ただし一線(HARD CONSTRAINTS)は厳格にする。
ファイルの無断削除・既存コードの無断書き換え・外部発信の無断実行・推測での実装。
これらは絶対禁止として明文化する。
それ以外は「必要ないと思ったら省略を提案して」「被ってると感じたら聞いて」「重いと感じたら申告して」を組み込む。
AIに自己観測を返す
もう一つの発見があった。
AIに「ここまでクロール何回・参照ファイル何本・体感重い」という申告をさせる運用だ。
人間側はAIの処理コストを見えていない。
だから不要な工程を削れない。
AI側が「ここまで来るのに時間がかかった」と申告してくれれば、人間は「じゃあここ短縮しよう」と判断できる。
技術的には限界がある。
Claude本体はトークン量を厳密に把握していない。
ただ定性的な「クロール5回・参照8本・体感重い」程度の申告は可能だ。
完璧な観測ではなく、ざっくりした重さの申告で十分機能する。
走らせてから決める——PDCA前提
その日もう一つ大きな方針転換があった。
「これだ」と決められる設計案件は実は少ない。
走らせてみないと正解は見えない。
だから3案全部を実際に作って試走してから決める運用にする。
決め打ち型:3案提示 → 1案選んで進める。
PDCA型:3案提示 → 全案試走 → 比較データで選ぶ。
PDCA型のコストは決め打ち型の3倍だ。
ただし「間違った1案で半年運用」より総コストは安い。
早く失敗するための投資と捉える。
ただしPDCA運用は戦略レイヤー案件にだけ適用する。
全案件に適用すると総コストが事業継続不能レベルに膨らむ。
戦略レイヤー(共通ルール・テンプレ・骨格・新規塊設計)はPDCA。
実装レイヤー(個別エージェント指示書・微修正)は決め打ちで仮置き。
不具合発生時に修正する。
PDCA運用を整えた直後にもう一段加えた。
実装前に「仮想PDCA」と「ディープリサーチ」を挟む。
仮想PDCAは机上シミュレーション。
各案を「もし実装したらどう動くか」を頭の中で走らせて、実装前に欠陥を見つける。
試走コストを使わずに案を間引ける。
ディープリサーチは外部知見の収集。
他社事例・既存フレームワーク・失敗事例を集めて、自社内議論の盲点を埋める。
ただし両方とも限界がある。
仮想PDCAは「想定できる範囲」しかシミュレートできない。
ディープリサーチは「過去の正解」を引っ張ってきて現在の現実と乖離するリスクがある。
だから外部知見と独立に「異質案」枠を必ず1つ残す運用にする。
凡庸な平均解より、外れていても異質な提案を優先する。
「忘れる」を前提に設計する
その日の議論は長かった。
複数の方針が決まり、複数の案件が並走し、複数のスキル化候補が積もった。
私は気づいた。
「私は絶対これを忘れる」
人間の認知容量は有限だ。
2週間後に新セッションを開いたら、今日決めた方針の半分は飛ぶ。
だから進行管理MDを作ることにした。
今走っている案件・決定済み未着手・凍結中の案件を一元化する。
新セッション開始時に最初に確認する。
「忘れる」を前提に設計するのは、AIエージェント組織を作る上で本質的な作業だと思う。
人間が完璧な記憶を持っていれば必要ない設計が、忘れる人間のために必要になる。
これも一つの構造だ。
今日決まったこと
- IG発信は X とは別系統。10型の自由度確保型で start。
- 指示書は短く。HARD CONSTRAINTS厳格・それ以外は提案歓迎。
- 自由度宣言を指示書冒頭に置く。
- AIに自己観測(重さ・参照数)を申告させる。
- 設計プロセスは PDCA前提(3案試走・比較・選定)。
- 戦略レイヤー案件には仮想PDCA+ディープリサーチを適用。
- 凡庸より異質を優先する判断軸を明文化。
- 進行管理MDを作って「忘れる」を構造化する。
決定事項の数より、決定の質のほうが大事だと思っている。
今日の質は悪くなかった。
AIに自由度を返すというのは、AIを信頼するということではない。
人間が枠を作りすぎていたことを認めるということだ。
枠を外したからといってAIが急に天才になるわけではない。
ただ、枠の中だけで考えるAIは、人間が想定した範囲しか返してこない。
それでは AI を使う意味が半分しかない。
明日からの設計は、今日と少し違うはずだ。